sohramame’s 「吉備の古代を想う」吉備氏・尾張氏

岡山(吉備)の古代史についてですが、上古代日本史全般についても書いてます

イニエ・知初國(はつくにしらす)物語17-46 ハニヤスヒコの反乱

第10代崇神天皇のお話で、ハニヤスヒコの反乱のパートです。フトニ(孝霊天皇)の子で、第9代開化天皇とは従弟の関係です。イニエ(五十瓊殖)の「ニ」はフトニの「ニ」と同じ。「瓊」(たま、硬玉、ヒスイ)の意味です。会話・心情は創作ですが設定・背景は事実だと考えてます。

#イニエ 17
国が広がり豊かになったのは
もちろんイニエの政治構想が基礎にはあるが
モモソ姫のカリスマ性も欠かせず
そしてさらには
オオヒコ、ヒコイマス、キビツヒコ兄弟
の血気盛んで戦略家の皇族将軍達の
力によるところも大きかった
しかし
その輪に加わろうとしない者も居た
ハニヤスヒコである

#イニエ 18
ハニヤスヒコは従弟・イニエが王を継ぐ際、反対し
兄・オオヒコを推したが却下され
そのままイニエの手駒になること無く
宮から身を引いて隠棲していた

全てを諦めたわけでなく
父・クニクルの血筋を再び王の血統とすべく
兄もしくは自身が王を継ぐ計画
つまりクーデターを画策していた

#イニエ 19
ハニヤスヒコは
イニエによるヤマト王国の支配を快く思ってない
母の里に居たアガタ姫と結婚し
共にクーデターの機を伺った
巻向宮の情報は耳に入ってくる
天候不順による不作・疫病で民が疲弊し
人心が離れつつあった今を好機と考えたが
妻アガタ姫が
いえ、今は動いてはダメです
と諫めた

#イニエ 20
人心は離れつつある
かもですが
兄上ほかの将軍たちは皆
宮の近くにいます
今動けば敵の思うつぼ
幸い、イニエはヤマト国を広げるため
近々、将軍たち全てを東北西に派遣します
その時が動く時
と、アガタ姫はハニヤスヒコを諭す
そうだな
焦って事を仕損じたら
全てを失うな
と彼は応えた

#イニエ 21
ハニヤスヒコ達が密談をしていた
その頃
得ていた情報通り
イニエは
国内の不安定事情が解消
穀物の豊作、人心の安寧が進んだので
いよいよ王国拡張のため
攻勢に打って出る方針を固めた
皇族将軍たちは
やっと活躍の出番か!
と色めき立つ
しかし
モモソ姫は何かしら
浮かない顔をしていた

#イニエ 22
モモソ姫が不安な顔で言った
王イニエよ
遠征の軍に属しない身内の者に
注意して下さい
もう一つ
遠征の軍を率いる身内の者にも
注意して下さい
王の子孫に仇なす者が出てきます
今の内その芽を摘み取って置く事が必要です

先の注意は理解できるが
後の注意はイニエはよく判らなかった

#イニエ 23
イニエは
従兄弟のオオヒコ
そしてその息子でめきめき頭角を現しだした
ヌナカワヒコ
父の代からの忠臣
ヒコイマス
キビツヒコ
に各々の希望の方角に
進軍させることとした
しかし全員が
北、東方面を希望し
西方面は誰も行きたがらなかった
くじ運悪く
キビツヒコが西に行くことになった

#イニエ 24
オオヒコは息子ヌナカワヒコと共に
伊賀・阿閉経由で
父は北陸上越方面
息子は信濃上・下野方面に進攻
ヒコイマスも息子ヒコタタスと共に
木津・山城から北の丹波方面に進攻
キビツヒコは実は兄弟で2人居て
播磨経由山陽方面に進攻
と計画が出来あがり
秋の収穫が終わる頃
進軍開始と決めた

#イニエ 25
各将軍は本格進攻の前に予備部隊を率いて
オオヒコは角鹿(敦賀)あたりを
ヌナカワヒコは美濃あたりを
ヒコイマス・ヒコタタスは乙訓あたりを
キビツヒコ兄弟は播磨あたりを
地固めと更なる進軍のための拠点とするため
早々と出発することになり
イニエ・モモソ姫と
四道将軍は宮に集った

#イニエ 26
イニエは四道将軍たちに
進攻の目的(目標地)と
勝たないまでも負けない戦
(負けそうな時はその手前で進軍STOP)をすることと
途中の定期連絡を欠かさないこと
を訓示した
モモソ姫は各将軍の戦勝祈願をし
1つだけ将軍たちに注意を促した
身内の行動には十分気を付けなさい、と

#イニエ 27
モモソ姫の儀式が終わり場は解散となり
将軍たちは出発し始めた
イニエは一人ずつ二の腕に三度触れて
行軍の無事を祈った
特にオオヒコに対しては
ひととき、じっと目を見つめて
送り出した
またモモソ姫はキビツヒコ・兄だけを呼び止め
何かを囁いた
兄は了解!
という意味で軽く頷いた

#イニエ 28
キビツヒコ・兄は宮を出てから
弟を呼び止め言った
私は後から行くので
難波津でしばらく留まっていてくれ
峠から合図があったら
それが私が討つべき相手だ
ともに行動してくれ
弟は兄がそういう理由が全く分からなかったが
なんとなく察して
了解!
と一言だけ言って出発した

※キビツヒコ・兄は実名イサセリヒコ、弟の実名はヒコサシマです。

#イニエ 29
オオヒコは
息子ヌナカヒコが奈良坂の手前で東に向かうので
そこで別れ
ヒコイマスと共に奈良坂を越えて
木津でヒコイマスとも別れ
その地に宿をとった

夜になりその宿泊地に
一人の男が訪れる
オオヒコは人目を避けるように
男を迎え入れ
静かに会話を重ねる
相手はハニヤスヒコだった

#イニエ 30
オオヒコは出発前
ハニヤスヒコからの連絡を受け
木津で密会することにしていた
ハニヤスヒコは早速本題を切り出した

兄上、王の位を
父クニクルの血筋に戻しましょう!
イニエを倒すのです
それには将軍たちが各地に散る
今が絶好機、これを逃す手はありません
と静かにしかし熱く語った

#イニエ 31
懸命に語るハニヤスヒコを前に
オオヒコは
目を瞑ったまま賛意は示さなかった
父が薨った時に王は継ぐな!
と諭したモモソ姫の目に逆らえず
今もモモソ姫に遠くから見張られてる気がするからだ
そしてこう言った
悪いが兄はこのまま関を越えて
北国へ出征する
弟よ、命を粗末にするな

#イニエ 32
説得に失敗したハニヤスヒコは
不思議と失意は無かった
兄の不賛同は予想していた
そしてより一層
王位を取り戻す気持ちを昂らせた

最初の計画通り
妻のアガタ姫を呼び寄せ
クーデターを起こす算段を建てた
一通り決まったので
アガタ姫は成功を期す歌を謡った
月明かりの無い夜だった

#イニエ 33
巻向宮ではモモソ姫が
イニエに進言していた
ハニヤスヒコは兄・オオヒコに
共闘を断られ
単独で巻向に来るでしょう
今宵は新月
恐らく翌日か翌々日には動きます
西から別動隊も来るかもしれません
イニエは応えた
ではクニフコヒコを早速北に出発させ
西はキビツヒコを迎え討たせよう

#イニエ 34
ハニヤスヒコは北から
妻のアガタ姫は西から
攻めることにし
巻向までの距離を考え
ハニヤスヒコ軍が1日早く発進した

首尾よくいけば
奈良坂を越え王都に近づく頃に
アガタ姫と合流できる
と意気揚々と進軍
が、
木津川を渡河する頃
南・奈良坂の方から
整然と向かってくる軍隊を発見した

#イニエ 35
向かってくるのは
王都護衛のクニフクヒコだった
なぜだ?
我が軍の動きを知られていたのか?
誰に?
グルグルと考え巡るが
我が軍勢も動揺し始めたので
河を引き返し
木津川右岸に待機した
クニフクヒコが左岸に到着するのを見て
ハニヤスヒコは問うた
一帯誰の命令で私の動きを塞ぐのだ?

#イニエ 36
クニフクヒコは応えた
反乱を祝う歌が聴こえたと通報があり
それで王の命令で来たのです
ハニヤスヒコは思った
…にしては動きが早すぎる
事前に動きが漏れていたか?
兄が密告したのか?
と逡巡する間もなく
クニフクヒコは大量の矢を射かけてきて
不幸にもハニヤスヒコに刺さった

#イニエ 37
急所は外れたが
ハニヤスヒコが矢を受け倒れたことで
皆が浮足立った
そこへクニフクヒコの軍勢が川岸まで押し寄せ
嵐ように矢を打ちまくる
初戦で勝敗は決し
後はハニヤスヒコ軍は狩られまくる
立て直しは不可能と悟った彼は
せめてアガタ姫は闘わず逃げて欲しいと
使いを急がせた

#イニエ 38
ハニヤスヒコはクニフクヒコに突き殺され
反乱軍も悉く殺され消滅した
アガタ姫に連絡に発った者以外は…

姫は予定通り翌朝出陣したが
夫が大敗したという連絡を告げる者は間に合わず
意気揚々と巻向へ向けて進軍した
しかし峠を越えてすぐ
一塊の軍勢が見え
そこから一斉に矢が飛んできた

その他
#イニエ 39
アガタ姫は進軍を止め叫んだ
何者だ!吾の邪魔をするのは

すると
弓箭を持った男が現れ
吾はキビツヒコ
王イニエの命でこの地で其方を待っていた
何故、巻向に向かうかは知らぬが
引き返さねばこの場で消し去るぞ

アガタ姫は顔を真っ赤にし
王族ハニヤスヒコの妻に無礼を言うな
と罵った

#イニエ 40
アガタ姫の罵りを
キビツヒコは全く関心がない風で無視し
誰かは知らんが
吾の忠告を聞かぬ者は消えろ!
と言って
脇の者の槍をとり
串刺しにせん、とばかりに突いた

アガタ姫はそれを躱し
おのれ!許さぬ!
とキビツヒコに斬りかかろうとするが
周りの者がそれを引き止め
姫を宥めた

#イニエ 41
アガタ姫の臣下の者が
体制を立て直すため一旦引きましょう
と言いかけた時
ハニヤスヒコ伝令の使者が現れた

アガタ姫はその内容を聞いて
その場に膝をつき動かなくなった
そして急に
おのれ!イニエーっ!
と叫び
キビツヒコに斬りかかった
不意を突かれて
彼は尻餅をついて倒れた

#イニエ 42
キビツヒコが倒れたのを見て
アガタ姫はすかさず刀を刺した
が、わずかに彼には届かず
ちっ、と舌打ちし更に刺そうとした瞬間
正面から大量の矢が飛んできた

姫は躱す間もなく針山のようになって
その場に崩れ落ち
北東方向に手を伸ばしたまま
息絶えた
ハニヤスヒコの反乱は潰えた

#イニエ 43
キビツヒコは
何も無かったように立ち上がり
自兵に敵残兵の殲滅を指示し
完了すると
アガタ姫に刺さった矢を一本、一本抜き
姫の手に握られた刀をとり
地面に刺した
墓標のように
そして
何も無かったように弟の待つ
難波津に向かった
少しだけ明るさを取り戻した
三日月が空を漂っていた

#イニエ 44
ハニヤスヒコの反乱は空虚に終わった
しかし
ハニヤスヒコ・アガタ姫は呪いを残したのか
イワレヒコの
フトニ-イニエの血筋は
ひ孫の世代に終了してしまう
祖先を同じくする新しい王統によって

皮肉なことに
それに加担したのは
ヒコイマスの子孫であり
キビツヒコの子孫であった

#イニエ 45
ハニヤスヒコの兄オオヒコは愛発関に居たが
巻向からの使者の伝えで反乱の終息を知った
弟よ…
と思い巡らす中
モモソ姫からの伝書もあります
と使者が言った
そこには
オオヒコ様が加勢しなかったから
無難に反乱を鎮圧できました、感謝
と書かれていて
ハニヤスヒコの遺髪も添えられてた

#イニエ 46
オオヒコは
モモソ姫が感謝の意味で伝書を書いたのか
それとも皮肉の意味で書いたのか
諮りかねたが
なんとなく後者の意のような気がした
とすれば
姫は私のことを信用してないな
と気づき
遠征が終わっても巻向に戻るのは
止めておこう
という気持ちになった

※イニエ47に続きます