sohramame’s 「吉備の古代を想う」吉備氏・尾張氏

岡山(吉備)の古代史についてですが、上古代日本史全般についても書いてます

ヌカワミミ(綏靖天皇)のお話

本当は次はタギシミミの執政が入りますが、次代天皇のヌ(ナ)カワミミ(綏靖天皇)のお話です。会話・心情は創作ですが設定・背景は事実だと考えてます。

#ヌカワミミ 1
(記紀ではヌナカワミミですがお話の中ではヌカワミミです)
イワレヒコ(神武天皇)を継いだのは
タギシミミ
山本の国を勝ち取った王ではなく
伊都国から呼び寄せられた王
そんな人に磯城を含むこの国を
支配して欲しくない
黒速もイスズ姫も
息子ヌカワミミも
日に日にその思いは募った

#ヌカワミミ 2
建国の功臣たちと共に苦労してないながら
タギシミミは上手く国を治めた
ヌカワミミの兄のヤヌイミミが
タギシミミと仲が良いこともり
彼はヤヌイ、ヌカワに王位を譲ることなど
眼中にない
嫂婚制により神武の妻を我妻としたが
イスズ姫姉妹が子を授かり
その子が王位に就く保証はない

※嫂婚制(そうこんせい)…天孫族の祖、遊牧騎馬民族は王の死後、王の息子が王の妻を自分の妻とするしきたり。

#ヌカワミミ 3
それが分かったので
黒速・イスズ姫は
タギシミミを亡きものにしよう
と決めた
イスズ姫は当然黒速が刺客になってくれると思ったが
彼はイワレヒコの生前の喜びの顔を思い出し
渋い顔をした
イスズ姫は言った
兄上(兄磯城)との誓いを忘れたの?
黒速は正気に戻り今夜実行すると言った

#ヌカワミミ 4
黒速・イスズ姫はヤヌイ・ヌカワの兄弟に
これから行うことを明かした
ヤヌイミミは震えて泣きそうになっていた
黒速が決してタギシミミには言うな
と念を押した
ヌカワミミは兄を蔑むような眼で見ながら
微笑みでイスズ姫を見返した
今宵はイスズ姫が王のお相手をする夜だった

#ヌカワミミ 5
翌朝領内を見て回る予定だったので
タギシミミは寝所に入り早々と眠りについた
イスズ姫はそっと寝所を開き
黒速を招き入れた
寝息を立てる王・タギシミミの傍らに立ち
黒速は神に祈るように目を閉じたのち
キラリと光る短剣を両手に持って振りかぶる
その時タギシミミが目を開いた

#ヌカワミミ 6
固まった黒速を見ながらタギシミミは口を開いた
昼間ヤヌイミミの様子がおかしかったから
何かあるかも、と思っていたが
こういうことか
と静かに言い
私を殺すことが父・イワレヒコの望むことなのか?
と問う
黒速は頭を振りながら
違うと思います
と応え短剣を下ろしその場に崩れた

#ヌカワミミ 7
殺意の消えた黒速を失望の目で見ながらも
イスズ姫は、ここまでか、と諦めかけていた
タギシミミは安堵の色を浮かべ
磯城一族の処分を考え始めた
が、その時
黒速・イスズ姫の間を何かが通り抜けた
そして王の体から血が噴き出し
突進した物体が真っ赤に染まった
王に短剣が刺さっていた

#ヌカワミミ 8
真っ赤に染まった物体
それはまだ子供の体をしたヌカワミミだった
誇らしげな顔をして
黒速・イスズ姫を見返した
小鬼のような顔だった
もう今からではタギシミミは助からない
介錯をする意味で
黒速は自らの短剣でとどめを刺した
わずか半年ほどでタギシミミの治世は閉じた

#ヌカワミミ 9
叔父上がノロノロして役立たずだから
吾が手を下したんだよ
母上、褒めて!
と無邪気にヌカワミミは言う
母も満面の笑みでそれに応える
この二人を見てると
もしか、私は恐ろしい計画をしてしまったのか?
という後悔が黒速の心を占めた
しかしその思いにとらわれている時間は無い

#ヌカワミミ 10
タギシミミの死、ヌカワミミの血を浴びた姿を
宮臣にどう説明しよう?
と黒速は新たな悩みを抱えたが
イスズ姫が思いのほか速く
宮臣を集めて報告した
王タギシミミは子供のヌカワミミを
寝所に呼びつけ殺そうとしました
やむなくヌカワミミは応戦し
不幸にも王を葬ってしまったのです

#ヌカワミミ 11
イスズ姫の報告を疑う宮臣はいなかった
排除しようとして殺されたなら仕方いよな、と
さらにイスズ姫は声をあげた
不運が訪れたといえ
我々は次なる王を決めなければなりません
我が子、ヤヌイミミはどうでしょう?
宮臣は皆異存無かった
しかし
ちょっと待ってください
と言う者がいた

#ヌカワミミ 12
他でもない、それは
ヤヌイミミだった
吾は…吾は…タギシミミの跡は継げません
本当のことは言えず
肩を、声を震わせながら言った
しかし宮臣たちは
タギシミミに襲われて
怖かったので震えてるんだろう
と勘違いしていた
そしてヤヌイミミの言葉を待ってたように
イスズ姫は言った

#ヌカワミミ 13
では
ヤヌイミミが正気に戻り
継ぐ気になるまで
弟のヌカワミミに
代わりを務めていただきましょう
とイスズ姫
ヌカワミミは
兄のことなど全く気にせず
承諾の意味で、母に満面の笑みを浮かべた
ヤヌイミミは
何か気持ち悪いものを見た気がして
その場を去った
もうここには居たくない

#ヌカワミミ 14
タギシミミの殯もそこそこに
ヌカワミミが王に即位した
まだ子供の王であったが
磯城一族がバックにいるから
宮臣たちも以前と変わらず王に仕えた
ただ実際は母イスズ姫の傀儡で
王よりはイスズ姫の機嫌を伺う日々
やや意外なことに
王は母ではなく、自身の妹を愛し
寝食を共にしていた

#ヌカワミミ 15
母イスズ姫はヌカワミミを
息子として以上に愛すことは無かった
だからヌカワミミは
イスズ姫の面影を残した妹を
自身の妻のように愛した
もちろん正妃とすることはできず
また血が濃すぎるため子は育たなかった
王の血統は叔母イスズヨリ姫の子タマテミ
に移っていくこととなる

#ヌカワミミ 16
ヌカワミミは父やタギシミミの白橿原宮
ではなく
磯城一族の本拠地である
三輪山の麓に宮(皇居)を設けた
そこで自身が権勢を奮うことは無く
母イスズ姫、そして黒速が
イワレヒコ王国の盤石な基礎を築いて行った
ヌカワミミは16才で即位し
8年後の24才で薨った
早すぎる死であった

※綏靖(すいぜい)天皇の宮は葛城高丘宮(今の御所市)では無かったと考えてます。(「葛城」というのも誤って伝えられてると)

#ヌカワミミ 17
ヌカワミミの兄ヤヌイミミは
慕っていたタギシミミが
一族の陰謀で亡き者にされたことに失望し
また亡き王を弔うために
伊都国に旅立ち
タギシミミの母に
亡くなったことを報告した
そしてヤヌイミミはそのまま伊都国で暮らし
その地で妻と子を得て
穏やかで平和な余生を過ごした

これでヌカワミミ(綏靖天皇)のお話は終わりです。
次からタマテミ(安寧天皇)のお話ですが、次天皇からしばらくは家系的な話だけで、短くなると思います。