sohramame’s 「吉備の古代を想う」吉備氏・尾張氏

岡山(吉備)の古代史についてですが、上古代日本史全般についても書いてます

イニエ・知初國(はつくにしらす)物語1-16 巻向の神々

第10代崇神天皇のお話で、宮の神々のパートです。フトニ(孝霊天皇)の子で、第9代開化天皇とは従弟の関係です。イニエ(五十瓊殖)の「ニ」はフトニの「ニ」と同じ。「瓊」(たま、硬玉、ヒスイ)の意味です。会話・心情は創作ですが設定・背景は事実だと考えてます。

#イニエ 1
翌年イニエが王に就いた
それまでの王は
就任時の式典は無かったが
イニエのそれは盛大に行なわれた
モモソ姫の入れ知恵か
イニエ自身の発案かは分からないが…
そして宮を新しく造ることになった
それは三輪山からそう遠くない
巻向の地だった
別に磯城一族に気を使ったわけでは無い

※時は西暦4世紀前半(A.D.300~)頃のお話です。

#イニエ 2
巻向の地は
イワレヒコから連綿と続く
ヤマト王国・王家の奥津城(墓地)だった
なぜここに宮を?
と皆、訝しんだが
イニエは
今までの王と対話しながら
国を治める!
と煙に巻いて造宮を進めた
果たして
一帯に
清らかな水が流れる
神聖な政治空間が出来上がった
モモソ姫も静かに喜んだ

#イニエ 3
イニエは
先王であり従弟であるオオヒヒと
同じ年だった
ということは34歳で王に就いたことになる
彼は元来
孤高で自省的で独断の強い気質だったが
年を重ねて角が取れ円熟味を増し
大王たる風格が出てきていた
オオヒコ、ヒコイマス、キビツヒコ等の
皇族将軍も
自然と帰服していった

#イニエ 4
イニエは
巫女としてのカリスマ性を持った
モモソ姫の威光も
自身の権威付けに利用した
もちろん
モモソ姫を姉として尊敬し愛していたが
ただ
イニエ自身は
神をあまり信じていなかった
先王たちへの祭祀も
自分を生み育ててくれたことへの
感謝に過ぎなかった
彼はリアリズムの塊だった

#イニエ 5
イニエは
先王の墓域である巻向に宮を造ったが
それは静謐な地で
政に精神集中するためであった
だが
造宮時、先王の御霊と語らうため…
と冗談に宮臣に言ったため
宮臣は本当に先王の御霊と語らいながら
政を進めている
と勘違いしていた
そしてイニエを
神を崇め奉る崇高な人と評価した

#イニエ 6
モモソ姫は
イニエが神をあまり信じてないことを知っていたが
宮臣が、イニエを信心深い王
と誤解していたので
2人の姉弟
神に仕える巫男・巫女として王国を統治している
という体裁を繕った
しかし
イニエが王に就いた翌年に
早くも綻びが出始めた
近畿全般が天候不順の不作に陥った

#イニエ 7
王国は天候不順による不作で
飢饉が生じ疫病が蔓延し
人心不安が蔓延った
イニエは冷静にその対策を検討していたが
モモソ姫は何処かの神の祟と直感し
神降ろしを行った
そして
二人の兄弟には直接縁がなく
最近宗家が断絶した磯城一族の
守護神・三輪オオモノヌシが原因だとわかった

#イニエ 8
モモソ姫の神託に対しては
イニエは半信半疑で
ま、そんな事もあるかも…
ぐらいの感想だったが
宮臣達は姫のおっしゃる通り!
と巻向宮全体が蜂の巣をつついたような
大騒ぎになった
中には祟りを恐れるあまり
宮から逃げ出そうとする宮臣もいた程
騒ぎを静めるため、王と姫が皆を招集した

#イニエ 9
集まった宮臣の前でイニエは言った
モモソ姫に憑いた神は
三輪山のオオモノヌシだった
その神を祀っていた磯城一族は絶えてしまい
それを悲しんで祟ったらしい

王の発言を継いでモモソ姫が言った
磯城の傍系がヤマト国の
どこかにいるはずです
探してオオモノヌシを祀っていただきましょう

#イニエ 10
モモソ姫の提案で
宮臣達は心当たりを求めて捜索に出た
そして月が一巡する頃に
和泉の地にオオタタという
磯城一族に連なる者を見つけ
巻向に連れてきた
イニエの代わりにモモソ姫は言う
今、三輪山の神を祀る者が絶えて
神がお怒りのご様子
貴方がこの地に住んで
祀ってくれませんか?

#イニエ 11
モモソ姫は少女の頃
磯城への輿入れを拒んだ経緯があるので
三輪山の神には引け目を感じており
和泉で見つけたオオタタを
熱心に勧誘した
オオタタも当代一の巫女に
懇願されて断る理由はない
磯城の名は継がなかったが
姓に三輪の名を冠して
オオモノヌシを祀る役についた

#イニエ 12
オオタタに三輪の神
オオモノヌシを祀らせる事が決まり
モモソ姫は報告と共にイニエに提案した
今、宮中はイワレヒコから受け継ぐアマテラスと
私達の母方の倭一族の神を祀ってますが
これからオオモノヌシも共に
祀ってはどうでしょう?

イニエは思案したが
ハッと目を開き姫に言った

#イニエ 13
姫の言う通り3柱の神を祀れば
宮臣は安心するだろう
しかし3柱の神が喧嘩して
なお悪い結果になるとも限らない
というか
私は神が原因で
災厄や飢饉が起きたと思いたくない
だから今いる2柱は宮から出して
各々相応しい場所で祀り
三輪の神も同じようにしたい
とイニエはモモソ姫に言った

#イニエ 14
モモソ姫は意表を突いたイニエの意見に
唖然としたが
すぐに我に返り言った
すると宮中には祀る神がいなくなりますが
それでは困りませんか?
宮臣も不安がると思います
イニエは返した
そうかも知れませんが
宮臣や国民の目を内では無く
外に向けるべきだと思います
ヤマトを拡大します

#イニエ 15
イニエは高らかに目標を宣言した
今は神の力で国を治めることより
海に囲まれた八州を平らげ
ヤマト王国を拡張すると

そして巫女として素養高い
豊鍬のイリ姫にアマテラスを
渟名城のイリ姫に倭一族の神を
宮の外の清浄な地に祀らせた
また神の不在の宮には
いずれモモソ姫を祀ると宣した

#イニエ 16
イニエが宮から神を排除したことで
宮にはモモソ姫の世話をする人達が少し残り
それ以外はほぼ武人や官僚のみとなった
目標-計画-予算配分-実行-総括
というサイクルが循環し
そのサイクルに載って武人が国を広げ
税(収穫物)を回収していく
ヤマト王国はどんどん豊かに充実していった

※イニエ17に続きます